エデン日和

現役ライターが、普段書けない駄文を徹底的に公開するブログ

某地銀の金融道

その男は、ホテルのロビーにラフな格好で訪れた。私は1杯1200円もするコーヒーに腑に落ちない感情を抱きながら、その男に挨拶をした。男は軽く会釈をしながら目の前の椅子に腰掛け、私と同じ1200円のコーヒーを注文した。

 

男は社会人2年目からの付き合いだった。最近はあまり会っていなかったが、昔は月2回ぐらいのペースで飲んでいた。彼は某私大を卒業後、T銀行に入行した。T銀行はその地域ではナンバーワンの地位にある。同行はW大学の学閥が強い。頭取もW大卒。見えない縦のつながりが存在し、そのつながりは強固だ。ちなみに彼はW大出身ではないので、成績をとにかく上げることに全力に取り組む毎日なのだそうだ。

 

その成績を裏付けるのが、「ノルマ」である。銀行は公共性が高いとはいえ株式会社なので、前期数値対比マイナスは許されるはずもなく、新規先数(貸出先の件数)、予算、期中平残(平均残高の略。ある期間の毎日の残高の和を日数で割ったもの )、役務収益( サービス(=役務)提供による売上)などなど、様々な指標で競い合う。しかし、時に謎の力が働いて、ノルマの重しが軽くなることも…。

 

ノルマ達成を目指しつつ、融資の新施策で結果を残すことも怠らない。なぜなら、新施策で結果を残せば社内のイントラネットに掲載され、自分の評価が高まるばかりか、その支店長の評価も上がるからである。そうやって実績を作っていく。

 

メガバンクの大量離職のニュースが話題になっているが、彼は最近の辞める行員について話題にし始めた。T銀を辞める行員は、本人の耐性はもちろん、配属された支店の人間関係にもよる。3年ごとに人事異動が発令されるようだが、異動がないこともある。異動がないとわかった時点で、退職を決意する人も多いらしい。就活時に銀行に内定することが名誉だと思う人、数字や分析がしたくて入ったが営業しかやらせてもらえず不満が募った人は早々に辞めていったとのこと。

 

どの会社にも天皇はいるのだと思った。T銀では、頭取の上に「会長」というポストがあり、天皇と呼ばれている。会長は目の上のたんこぶであるが、T銀を支えた功績があるので、いまもなお君臨し続ける。ちなみに役員以上は事故の危険性を鑑みて車の運転ができない。なので公用車がつく。ちなみに車種はセンチュリーではないらしい(センチュリーは某組合の送迎に使われている)。

 

このほか、その地域の話など様々な話題で盛り上がったが、その話はまた別の機会に記すことにする。彼を含め、行員が行員であり続ける理由は「社会的信用度の保持」なのか「退職金」なのかわからないが、実に昭和っぽい。昭和っぽいが、その地域は確実にその社風を必要としている。

 

ただ、マイナス金利の導入によって、地銀の今後はどうなるのか。「正直不安ではあるものの、とにかく目の前の仕事をこなすしかない。それが地銀に就職した者の宿命」と彼は語り、コーヒー代をテーブルの上に置いた。